今日、自然科学の研究ほど国境を越え、言葉の壁を越えてグローバルに広がっている分野はありません。これは学術、非学術の違いを問わず、どのような分野と比較してもほかに例を見ないほどです。科学の発展をめざして、研究者たちは国境や言葉の壁を越え対話をしようと努力を積み重ねてきました。その結果、やがて英語という言語が自然科学分野で圧倒的に優位な地位を占めるようになってきました。このいわゆる「英語の支配」により、英語を母語とする者たちに有利な状況が作り出されたことは疑いようもありませんが、一方で英語を母語としない者たちは、新たな負担を背負い込むこととなりました。というのも研究者になるためには、専門分野での高いレベルの知識や方法論を身につけることに加え、さらに英語という外国語もマスターしなければならなくなったからです。とはいえ、科学者たちが英語を介して対話ができることの利点は、計り知れません。
たとえばWeb of Scienceという科学系の論文をデータベース化しているサイトでは、2014年に発表された癌に関する論文だけで約200,000本が載っていますが、そのうち実に98%が、英語で書かれています。専門的な英語が理解できれば、すぐにでもこれらの論文に直接アクセスし、自分で読むことができるのです。また共通の言語があるおかげで、研究環境の整わない国や地域の研究者であっても、翻訳者に頼らずとも他国の科学者たちと協力して研究をすることができます。さらに研究者たちにとって英語という共通言語があることの最大の意義は、研究論文を英語で発表すれば、同じ分野の世界中の科学者たちに自分の発見、研究の重要性をすぐさま理解してもらえることです。このような自然科学、英語をめぐる現況を背景として、東京大学の理科系の学生たちが、将来研究者として世界で活躍するために必要な学術的英語の基礎を習得する、その手助けをすることを目標にALESSプログラムは立ち上げられました。